予防獣医学観点のしつけ方

ペットには「正しい仕事」を

あなたのワンちゃんは「番犬」になっていませんか?よく、吠えることを自分の仕事にしてしまっている子がいますが、小さなワンちゃんにとって吠えることは心臓に大きな負担がかかる行為です。飼い主さんだってワンちゃんには家でのんびり過ごしてほしいはずなのに、これではお互いに不幸です。

 

ワンちゃんには正しい仕事を与えましょう。正しい仕事とは、「飼い主を観察して一生懸命に気遣う」ことです。しかし、四六時中気を遣っていてはワンちゃんも疲れてしまいます。そこで私がおすすめしているのが「リーダーウォーク」です。

 

リーダーウォークとは、飼い主があえてワンちゃんに歩調を合わせず、知らんぷりしてジグザグに歩く散歩です。ワンちゃんも飼い主さんも疲れますから、時間は5分が限度です。これがワンちゃんに飼い主に気を遣う喜び(飼い主を信頼する喜び)を教えるしつけになるのです。

 

アメリカ的なしつけは「訓練」、つまり飼い主が命令して言うことを聞かせるイメージです。しかし、日本人がやるべきしつけは、「ペット自身に考えさせる」ことです。ワンちゃん自身が、「飼い主さんに褒めてもらうためにはどうすればいいかな」と考えることができるように導いてあげます。

 

一方、ネコちゃんの幸せは少し違います。ネコちゃんの中には構われるのが嫌いな子もいます。放っておいてほしいタイプの場合、飼い主さんはネコちゃんに構いたくなっても少し我慢してみて下さい。もっと言えば、ネコちゃんのほうから構ってほしいと寄ってきても、「今は忙しいから」くらいの態度はとっていいでしょう。

お世話のしすぎに要注意

病気予防の第一歩は、飼い主がペットに手をかけすぎないことです。

 

ワンちゃんのためにと、長時間の散歩を習慣にしている飼い主さんは大勢いらっしゃいます。しかし、ワンちゃんの好きなようにマーキング(おしっこ)をさせて、30分、1時間と続く散歩は、実はワンちゃんの幸せを奪っているのです。

 

オスの場合、散歩中ににおいを嗅ぎ回っていると家に帰ってもメスのことで頭がいっぱいになり、年中発情してしまいます。これでは生殖機能を担う前立腺が過度に刺激され、家でのんびりできないばかりか、前立腺の肥大や腫瘍につながるリスクが高まります。また、長時間の散歩でいろんなものを舐めてしまうと中毒のリスクもあります。

 

飼い主さんの中には、「においを嗅ぐのは本能だから、やめさせたらかわいそう」とおっしゃる方がいますが、これは間違いです。もし家族全員が常に本能のままに行動したら、家庭は崩壊しますよね。ワンちゃんも家族ですから、人間と同様に「家族としての理性」を身につけさせて暮らすことが大切です。

 

もう一つ、飼い主さんが手をかけすぎてしまうのが、ワンちゃんの歯磨きです。飼い主さんが歯磨きしすぎたせいで口を触られることを嫌がる子がたくさんいます。

 

歯磨きの時は、恩着せがましいくらいの態度でやるのがおすすめです。「歯磨きが嫌ならご飯は抜きだよ!」くらいのことは言っても構いません。このしつけを続けていると、ワンちゃんは次第に「歯磨き=嬉しいこと」だと思うようになり、自ら「磨いてちょうだい」と寄って来るようになります。こうなれば病気も予防しやすいわけです。

聞く耳を持つことの大切さ

大病で入院したペットが退院する際、飼い主さんから「どんな症状が出たら連れてくればいいですか?」とよく聞かれます。この質問を受ける度に、私は「なぜ『どうしたら病気を予防できますか?』という質問が出てこないのだろう」と疑問に思います。

 

飼い主さんはペットの声なき声に「聞く耳」を持って下さい。ペットがもどすのは「気持ち悪いよ~」という声、下痢をするのは「お腹が痛いよ~」という声です。

 

人間が気持ち悪さを訴えている時は、食事を控えてお腹を休ませるのが普通でしょう。しかし飼い主さんの中には、もどしたり下痢をしたりしていても「食べたから様子を見ていました」という方が少なくありません。気持ち悪いと訴えている動物に無理やり食べさせて余計に具合を悪くさせているのは、飼い主さんなのです。

 

お腹が痛そうだったら、まずは24時間かけて水を少しずつ飲ませます。24時間経って水を吐かないようなら、食事を少し与えてみて下さい。吐かなければ少しずつ量を増やします。これで回復すれば病院に来る必要はありません。飼い主さんが「聞く耳」を持っていれば、病院にかかるほどの病気にならずに済むのです。

ペットに美味しいものは不要

飼い主さんの中には、ペットが吐くと「もっと美味しいものをあげなくては」と考える方がいます。しかし、ペットに美味しいものは不要です。人間とワンちゃん・ネコちゃんでは、「食事」の意味が違うことを知らない飼い主さんは多いです。

 

人間は雑食動物であり、様々な食材を摂取するために美食の文化を生み出しました。極端な話、人間は「食べるために生きている」と言っても過言ではない存在です。一方、イヌ・ネコは肉食動物であり、元来は獲物を捕らえて食べていた生き物です。食べ物がなければ数日食べなくても大丈夫で、栄養的に満足できていれば無駄な狩りもしません。すなわちイヌ・ネコは「生きるために食べている」のであり、人間と根本的に異なるのです。

 

私は飼い主さんに「『食べない』ではなく『食べることができない』と言って下さい」と伝えています。

 

「食べない」と思っている飼い主さんは、何かしら工夫して食べさせようとして、ペットに負担をかけしまいます。しかし、「食べることができない」という認識を持てば、原因と治療法に目が向きます。食べすぎが原因ならお腹を休めればいいし、そうでなければ腎臓・肝臓や歯が悪くて食べることができない可能性もありますから、病院を受診するのが妥当です。ペットに余計な負担もかかりません。

しつけを覚えた飼い主の変化

当院で正しい食事のしつけを覚えた飼い主さんは、「吐いて、食事は食べていますか?」と尋ねると、「先生、何言ってるの!吐いて気持ちが悪いって訴えているのに、食べさせるわけないでしょ!」と答えてくれるようになります。

 

このような正しい判断ができるまでに、通常7〜8年かかるでしょう。しかし、ペットの一生の半分以上を正しい愛情のかけ方で見守れるようになり、ペットも飼い主さんもより幸せに暮らせる病気予防が身につきます。ペットを本当の意味で家族として尊重できるようになるのです。だから多くの飼い主さんが、当院のしつけ方法を辛抱強く実践して下さっています。

ご相談はお気軽に

ペットのことでお悩みがございましたら、おゆみ野動物病院まで。

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